テナントの火災保険は、貸主指定の保険会社でないとダメ?
業種別保険
2022.07.21更新
みなさんは、賃貸住居を借りる際、火災保険に入ったことがありますか?
部屋の賃貸借契約とともに、まとめて火災保険の契約を交わしてしまったという方も多いのではないでしょうか。
店舗テナントを借りる契約をする際も、ほとんどの場合は賃貸借契約書に「(貸主指定の)保険に加入すること」と記載があります。この保険は自分で加入を決めることはできないのでしょうか。
今回は、店舗テナント契約時に重要な火災保険をはじめとする保険について、そしてお店に最適な保険の選び方についてご紹介します。
目次
火災保険の概要
住宅向けの火災保険は、建物本体や建物内の家具家電等の家財道具を補償する保険です。店舗テナントを借りる際にも、一般的な住宅と同様に火災保険の加入が求められます。まずは、店舗テナントを借りる際に求められる火災保険の概要を確認していきましょう。
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火災保険の目的は入居する貸借人またはテナントの財産(家財道具や什器など)を補償することです。しかしこれだけでは十分な補償とはいえず、火災等の災害が発生したときに、契約者が多額の賠償金や修理費用を負担しなければならないリスクがあります。したがって、テナント向けの火災保険に各種賠償責任保険を組み合わせるのが一般的です。
火災保険の目的
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賃貸住居を借りる際には、建物を借りた人の財物を補償する火災保険と合わせて、借家人賠償責任保険への加入も求められます。借家人賠償責任保険とは、火災によって大家さんが所有する建物等の財物に損傷を与えたときに賠償金が支払われる保険です。
一方、店舗テナントを借りる際も、火災保険以外に以下のような保険の加入が必要です。
- 借家人賠償責任保険 ・・・大家さんの財産を補償するもの
- 施設(店舗)賠償責任保険・・・契約者が所有する店の欠陥、不備により第三者にけがを負わせてしまったり、他人のものを壊してしまったりした場合の損害を補償するもの
- 生産物(製造物)賠償責任保険・・・食中毒などを起こしたときの損害を補償するもの
テナント契約時に求められる保険の種類と補償内容
ここでおさらい!火災保険の補償内容
火災保険の詳しい補償内容を全て把握している方は多くありません。まずは店舗や火災保険の補償内容や保険金額の設定方法、付保できる特約について分かりやすく解説します。
一般物件向け火災保険の基本の補償内容は「建物や什器」が対象
テナントが加入する火災保険の多くは「一般物件」です。一般物件とは居住用物件ではなく、飲食店や事務所、工場、美容室、小売店、宿泊業向け施設などをいいます。一般物件は、居住用物件とは異なる一般物件向けの火災保険に加入する必要があります。
一般物件向けの火災保険の対象は、建物や建物内の什器、建物外に設置されている看板や建物内の製品などです。こういった保険の対象は契約時に契約者が決めていきます。不動産会社が提案するデフォルトの補償内容では十分な補償が受けられない可能性がありますので、慎重に検討しなければなりません。例えば「建物と什器のみ」を保険の対象としていた場合、建物内の製品は補償されません。
建物や什器の保険金額の設定方法は2種類
火災保険の建物や什器は、契約時に保険金額を設定します。保険金額の設定方法は大きく分けると、再調達価額と時価額の2通りです。
- ●再調達価額
- 再調達価額とは、同等の建物や什器を再取得するために必要な金額のことをいいます。新価とも呼ばれ、現在使用している建物や什器と同等の製品を購入できる金額が保険金として支払われます。例えば10年前に500万円で購入した冷蔵庫が火災によって全損状態になった場合、再調達価額500万円の保険金額を設定しておけば、500万円を上限に同等の製品を新たに購入することができます。
- ●時価額
- 一方で時価額とは、損害が発生したときの価値によって保険金が支払われます。10年前に500万円で購入した冷蔵庫が火災で消失した場合、購入からの経過年数などによって保険金の額が減額されます。したがって同等の製品を新品で購入することはできません。
追加の補償をセットできる「特約」
火災保険は、建物や什器などの補償の他に特約をセットすることができます。一般物件向け火災保険にセットできる特約は以下の通りです。
- ・休業損害補償
- 契約で定められた事故で、休業を余儀なくされた場合、休業したことで生じた損害が補償される特約です。休業損害補償の支払い対象になる事故の範囲は、保険のグレードによって異なります。一般的には補償の幅が広くなれば保険料が高額になり、限定されていれば割安になります。
- ・賠償責任保険
- 火災などによって借りている建物などに損害を与えた場合や、営業活動によって貸主や他者の財物に損害を与えたとき、他人の身体を傷つけたときに賠償金が支払われるのが賠償責任保険です。賠償責任保険の詳しい補償内容や種類については後ほどご説明します。
- ・各種費用を支払う特約
- 火災保険には、弁護士費用や火災後の片付け費用などの、各種費用を補償する特約をセットできます。弁護士費用保険は、ご自身が第三者に賠償金を請求したいときに使用できる保険です。各種費用とは、臨時費用や残存物の片付け費用などです。多くの火災保険には、各種費用の特約が自動で付帯されています。
火災保険の支払い対象になる事故
火災保険が支払われるケースはほとんどの保険会社で共通しています。保険金が支払われるのは以下のケースです。ただし、保険の契約内容によっては支払われないケースもあります。一般的に補償範囲が広がれば保険料は高額になり、補償範囲が限定されれば保険料は安くなります。以下の事故原因のうち、ほとんどの保険会社の火災保険で補償されるのは、火災・爆破・破裂、落雷・水濡れです。
火災・爆破・破裂
賃借人の失火や第三者の放火などによって火災や爆発が発生した場合に、破損した建物や什器などを原状復帰するための費用が支払われます。火災や放火以外にも、ガス漏れによるガス爆発も補償対象です。
落雷
落雷によって、火災が発生した場合や、建物、什器などに損傷が生じた場合に保険金が支払われます。例えば雷が店舗の屋根を直撃して屋根材が破損した場合は、屋根の修理費用が支払われるという具合です。事務所や店の前、駐車場などの敷地内に雷が落ちて、建物が燃えた場合も補償対象となります。
風災・ひょう災・雪災
風やひょう、雪などで建物や什器などに損傷が生じた場合に、修理費用や再調達費用が支払われます。代表的な保険金が支払われるケースは以下の通りです。
- ・風で建物の一部が剥がれてしまった
- ・ひょうで屋根に穴が開いた
- ・雪の重みで建物が潰れた
水漏れや水濡れ
建物の給排水設備の故障や不調によって、建物や什器などに損害が生じた場合、現状復帰のための費用が支払われます。別のテナントが発生させた水漏れや共用部分の水回りによって、事務室のパソコンが壊れたといったケースが想定されます。
盗難
保険対象となる什器などが盗まれた場合、盗まれた什器などの調達費用が火災保険から支払われます。「店舗のワインセラーが盗まれた」といった事例で保険金が支払われます。また店舗やオフィスに忍び入るために壊されたドアや窓などの修理費用も補償対象です。
外部からの飛来物による損傷
建物の外部から飛来した物体などによって、建物や什器などが破損した場合も火災保険の支払い対象です。「風で飛んできた他社の看板が事務所の壁に刺さった」「鳥が飛来してガラスが割れた」といった事故が発生した場合に保険金が支払われます。
不測かつ突発的な事故による汚損や破損
これまでご紹介した原因以外の、偶然発生した事故によって発生した損傷や汚れについても、保険金が支払われます。
「オフィスの席替え中に棚を倒してしまった」「歩いているときに、プリンターを落としてしまった」といったケースが想定されます。
火災保険の保険料の決まり方
一般物件向けの火災保険の保険料は建物の種別や業種、補償範囲、設定した保険金額によって計算されます。火災保険はさまざまな補償を組み合わせたオーダーメイド保険の側面もありますので、一概に保険料を算定することはできません。
一般物件の保険料算定の基礎になる建物の構造
店舗や事務所などの保険料を算定する基礎となるのが「構造級別」です。構造級別は以下の3種類となります。
- ・1級……鉄筋コンクリート造やレンガ造、コンクリートブロック造、石造などの物件で、耐火建築物件であり、柱が耐火被覆鉄骨造の物件
- ・2級……柱が鉄骨造りであり、準耐火建築物、省令準耐火建築物であること
- ・3級……1級2級に該当しない木造物件など
1級は丈夫な建材で建築された建物であり、耐火性も高いため保険料は安くなります。一方で3級は木造建築など、燃えやすく倒壊しやすい建物ですので、保険料は割高です。
火災保険の補償範囲によって保険料が変わる
火災保険の補償範囲は、保険契約ごとに定めることができます。「火災と水漏れ発生時のみ」というように補償範囲を限定すると保険料は安くなる一方で、先述した事故を全てカバーする場合には保険料は高額になります。ご自身の店舗や事務所が抱えるリスクと支払える保険料を考慮して、補償範囲を決定しましょう。
業種によって保険料が変動する
調理などで火を使うことが多い飲食店や宿泊施設などは、火災が発生するリスクが高いため保険料が高くなります。一方で、事務所や美容室、飲食物を提供しないアパレルショップなどは火災が発生するリスクが低いため、保険料も割安です。
保険金額と保険料は連動する
火災保険の保険料は、建物や什器などの保険金額と連動します。設定した保険金額の上限額が高額であれば、保険料も高くなりますし、保険金額が安くなれば保険料も下がります。とはいえ保険料を節約する目的で、保険金額を下げることは好ましくありません。火災保険において保険金額を下げすぎてしまうと、事故が発生したときに十分な補償を受けられず、経営に大きな打撃を与えてしまいます。保険料と必要な補償のバランスを見極めて、適切な保険金額を設定しましょう。
特約を付保すると保険料は高くなる
店舗や事務所向けの火災保険には、業務用に特化した特約を付保することができます。特約を付保することで、事故が発生したときの影響を最小限に抑えることができるのですが、その分保険料は高額になります。特約を付けるときは、保険料とのバランスを考慮しましょう。保険料を支払うよりも、内部留保としてプールしたほうがよいケースもあります。
保険会社によって保険料は変わる
かつて日本の保険会社は同一の商品を同じ保険料で販売していました。したがってどの保険会社で契約しても、保険料は変わらなかったのです。しかし現在は、保険会社ごとに補償内容や保険料に差を付けることができます。一般的には、日本各地に支店を置く保険会社の火災保険の保険料は高額です。一方でインターネットを中心に販売している保険会社であれば、募集にかかる経費が少額で済むため保険料が低額になります。
火災保険と賠償責任保険の違いとは?
火災保険に加入するとき、セットで加入することが多いのが賠償責任保険です。多くの店舗や事務所といった事業用物件向けの損害保険は、火災保険と賠償責任保険のセットで販売されています。ここでは火災保険と賠償責任保険の違いについて詳しく解説します。
火災保険は建物や什器、賠償責任保険は他者への賠償
火災保険は基本的に、保険契約者が所有・管理する建物や什器、家具や電化製品などが対象となります。火災や水害などで建物などが損害を受けたときに補償される保険です。一方で賠償責任保険は、保険契約者が発生させた事故などによって、第三者の財物や身体に損害を与えたときに、賠償金を支払う保険です。賠償金とは、他人に損害を与えた場合に原状を復帰するための費用のことをいいます。ケガをさせた場合はケガの治療費や後遺障害が生じた場合の慰謝料などです。他人の財物を破損させた場合は、その修理費用や同程度の製品を再度購入する費用が賠償金です。賠償金は損害が発生しなければ、支払うべき金額が分かりませんので、保険に加入してリスクに備えておく必要があります。建物や財物の損害とは異なり、賠償金の金額が青天井になるケースは少なくありません。
もっとも分かりやすい賠償責任保険は、自動車保険の対物賠償責任保険や対人賠償責任保険でしょう。事業用物件の火災保険とセットで加入することが多い賠償責任保険は、生産物賠償責任保険や受託者賠償責任保険、借家人賠償責任保険や施設賠償責任保険です。とくに賃貸物件で事業を営んでいる場合には、借家人賠償責任保険には必ず加入します。
一般物件向けの火災保険には賠償責任保険がセットになっていることも多い
店舗や事務所用の火災保険には、通常の火災保険に加えて、借家人賠償責任保険と施設賠償責任保険がセットになっているケースが多い傾向です。借家人賠償責任保険とは、火災などで貸借している物件内のオーナーの財物に損傷を与えた場合に賠償金が支払われる保険です。借家人賠償責任保険に加入していない状態で火災が発生した場合、物件のオーナーに多額の原状復帰費用を支払うことになります。施設賠償責任保険とは、建物の設備などが原因で訪問者に損害を与えたときに賠償金が支払われる保険です。
業種によって最適な賠償責任保険を選ぼう
店舗や事務所などを構えて営利活動を行っているのであれば、リスクヘッジとしての賠償責任保険の加入は必須です。必要となる賠償責任保険は、営んでいる事業内容や業種によって異なります。例えば、理容室や美容サロンを経営している場合は、受託者賠償責任保険や施術行為起因損害賠償責任保険といった保険を検討すべきです。これは施術中にお客様にケガをさせてしまった場合に賠償金が支払われる保険です。
また飲食店を経営しているのであれば、生産物賠償責任保険が必要です。生産物賠償責任保険に加入している店舗で、お客様に食中毒による被害を与えた場合、補償対象となります。さらに店舗への来客によって収入を得ている場合には、店舗休業保険に加入しておくことで、天災や火災などによって休業を余儀なくされたときの収入減少が補償されます。
このように賠償責任保険は業種によって加入すべき保険が異なりますので、契約を締結する前に、ご自身の営む事業に適した補償内容になっているかどうかを必ず確認しておきましょう。経営者個人が賠償責任保険に加入していたとしても、業務上で生じた賠償責任については補償されませんので、事業用の賠償責任保険への加入が必要です。
テナント貸借に関する保険の概要
では、実際にテナントの貸借契約を結ぶ際の保険の概要を見ていきましょう。
不動産店や貸主から求められる保険
店舗テナントの貸借契約には、「(貸主指定の)保険に加入すること」といった条項が入っているのが一般的です。
不動産会社や貸主は、入居テナントの不備等により、自身の所有・管理する財産に損害が出ることを恐れています。そのため、貸主側が要求するのは火災保険という名の、「借家人賠償責任保険」であることがほとんどです。
この保険ではテナントの持つ財産、つまり家具や厨房機器などはカバーされていないのです。
テナントとしてつけておきたい補償内容
では、貸主に対する補償以外にテナントはどういった備えをしておくべきなのでしょうか。
例えば、店舗運営において以下のようなリスクが考えられます。
Case1店内が損害を受けた場合
火災や水災などの自然災害、車が衝突したことによって店舗が傷づいたなど、店内が被害を受けた際は、営業再開までに家具や設備を新調しなければなりません。
Case2食中毒など問題を起こした場合
被害者に何らかの賠償金を支払ったり、最悪の場合、訴訟問題になることもあります。
Case3店内で盗難被害が発生した場合
保管していたお客さまのバックが万が一盗まれた場合、弁償する必要があります。
このようなリスクに対処することで、安心して店舗運営に臨めます。
お店に最適な保険の選び方
お店を経営する上で、店舗保険への加入は欠かせません。お店に応じた最適な保険選びが必要となるります。ただし、さまざまな保険会社が存在し多種多様なプランが用意されている昨今、最良の保険選びに悩む方も多いのではないでしょうか。
納得のいく保険選びのポイントとはいったいどこにあるのでしょうか。
火災保険、店舗保険の内容は自分で選べる!
保険は、不動産から勧められたものに加入しなければならないと思われがちですが、実は違います。
加入する保険内容や保険会社を自分で選ぶことができるのです。
「保険会社は契約者(テナント側)に選択する権利があり、誰もそれを強制することはできない」という原理原則があります。事業主側が保険を選ぶ権利を保障されているのです。
不動産からおすすめされる保険は、もちろん貸主の財産をカバーする十分なボリュームの保険が用意されています。しかし、その妥当性を検討するために、まずはそれと同等の内容をカバーする保険を他にも探してみましょう。万が一、保険会社やプランを変更したい場合は、まず不動産会社に打診してみましょう。
店舗保険にセットできる多様な補償
店舗保険に加入する場合、火災保険の他にも多彩なリスクをカバーするオプションが用意されています。必要なものを、必要な範囲内で契約することが可能です。例えば、以下のような保険が店舗経営において必要となる代表的な保険です。
- 修理費用補償特約
- 施設(店舗)賠償責任保険
- 生産物(製造物)賠償責任保険
- 食中毒見舞保険金
- 受託物賠償責任の補償
- 人格権侵害賠償責任の補償
保険会社によって、店舗保険の中にこれらの保険が含まれている場合もあります。保険に加入する前に、お店で必要となる保険内容やプランをしっかり検討しましょう。
自分で保険内容、保険会社を検討するコツ
はじめて店舗保険に加入する方にとって、保険選びは難しいと感じる方は多いでしょう。
お店にぴったりな保険内容、保険会社を選ぶコツ、流れをご紹介します。
STEP1貸主の求める保険の内容を知ろう
不動産から提案された保険のカバー内容をチェックしましょう。
貸主の財産がいくらの範囲まで、どの程度の期間の補償なのかを把握します。
STEP2複数の保険会社に見積もりを依頼
店舗テナント用保険を準備している会社数社に見積もりを依頼します。見積もりを取る際は、自分の希望する総合型店舗保険に加え、火災保険(貸主側)の単独の見積もりも取りましょう。そうすることで、同等の補償で保険料が違うことを説得しやすくなります。
STEP3他社の見積もりを取ったら交渉開始!
見積もりがきたら、それを持って不動産に交渉開始です。
すんなりとはいかないかもしれませんが、希望を持って粘り強く交渉しましょう。また、どうしても指定のところでないとNGと言われた場合は、出来るだけ自分の希望の金額に近づくように補償プランを下げてもらうのも良いです。その場合は、貸主側の補償以外の部分をカバーした店舗保険に別途入っておきましょう。
当たり前のように不動産会社が持ってくる保険の書類。多くの場合、テナント側には「月払」「年払」「一括払」程度の選択の余地しかないように見えます。しかし実際は、その大部分を交渉することが可能です。契約書に記載のある内容は契約前に確認することが基本ですが、契約期間が始まった後でも気軽に交渉してみましょう。
保険は、万が一のトラブルからお店を守るために重要なものです。お店にぴったりな保険選びをしましょう。
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