借家人賠償責任とは?店舗保険で補償できるの?
損害賠償責任
2022.06.16更新
借家人賠償責任とは、大家さんに対して損害賠償責任を負った際、その損害賠償を補償する保険です。火災保険などの損害保険では自分の所有物のみが対象となるために、店舗を借用している場合には加入の必要があります。この記事では、借家人賠償責任の概要、借家人賠償責任の保険内容、および店舗保険で借家人賠償補償が受けられるかどうかについてみていきましょう。
借家人賠償責任とは
それでは最初に、借家人賠償責任とはどのようなものなのかご説明します。
借家人賠償責任とは?
- 借家人賠償責任とは大家さんに対する損害賠償責任のこと
借家人賠償責任とは、大家さんに対する損害賠償責任のことです。火災保険などの損害保険は自分が所有している財産に対する保険で、借用しているものは補償対象外となります。店舗を借用している場合は、損害保険では店舗に対する補償を受けることができません。
一方、借家人賠償責任補償は、借用している店舗に損害を与えた場合に、大家さんに対する損害賠償を補償する保険です。損害保険のセットプランとして販売されるのが一般的です。 - 損害保険は自分が所有する設備や什器・商品のためのもの
損害保険で補償される損害の原因は、
火災、落雷、破裂・爆破、風災・雹災・雪災、落下・飛来・衝突、水濡れ、暴行・破壊、盗難、水害
など多岐にわたります。また、事故にともなう次のような出費に対しても、損害保険は補償対象としています。
・事故の際の宿泊代など臨時に必要とされる費用
・事故の際の残存物を片付けるための費用
・失火見舞いのための費用
・仮店舗の賃借費用など事故の復旧にともなって必要となる費用
しかし、これらの補償は、自分が所有している財産に対する補償です。大家さんから借用している店舗については、補償対象とはなりません。
- 大家さんに対する原状回復責任は借家人賠償責任保険で果たす
大家さんに対しては、店舗の賃貸借契約において「原状回復義務」を負っています。原状回復とは、国土交通省のガイドライン では、「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」と定義されています。ただし、通常の使用による損耗等のいわゆる経年変化についてはここに含まれません。
火事などにより、借用している店舗を原状回復して返せなくなった場合には、大家さんに対して債務不履行が発生し、損害賠償責任を負うことになります。この大家さんに対する損害賠償責任を補償するのが、借家人賠償責任補償です。
- 修理費用補償との違い
損害賠償保険には「修理費用補償」がセットされているのが一般的です。この修理費用補償と借家人賠償責任補償はどのように違うのでしょうか?
店舗の賃貸借契約において、例えば窓ガラスについては、借用しているものであっても、もし破損した場合には賃借人が自分で修理することになっている場合があります。電球や窓ガラス・網戸・畳など、消耗品についてはそのような契約になっていることがあります。
そのような、賃貸借契約に基づく修理費用を火災などの事故の際に補償するのが修理費用補償です。したがって、賃貸借契約に基づく修理費用ではない、大家さんに対する損害賠償費用については、修理補償費用の対象とはなりません。
借家人賠償責任保険と個人賠償責任保険の違い
借家人賠償責任保険と似た保険に、個人賠償責任保険があります。個人賠償責任保険は、日常生活賠償責任保険と呼ばれることもあり、自動車保険や火災保険の特約として付保している方が多い傾向です。またクレジットカードにサービスで個人賠償責任保険が付帯していることもあります。
・個人賠償責任保険とは
個人賠償責任保険とは、日常生活の中で他人のものを壊したり、他人を傷つけたりしたときに賠償金が支払われる保険です。具体的には「契約者の子どもが、店頭のガラス製品を割ったとき」「契約者が自転車で他人と接触をしてケガを負わせたとき」「草刈りをしていたら、草刈り機で他人の自動車に傷をつけたとき」などが個人賠償責任保険の支払い対象です。飼い犬が他人を噛んでしまったり、飼い猫が他人の庭の構造物を破壊したりしたといったケースも、個人賠償責任保険の出番となります。
個人賠償責任保険は、相手のケガの治療費や慰謝料、壊れた財物の修理費用などのほか、示談交渉のために必要な弁護士費用や、訴訟に発展した場合の訴訟費用も支払われます。ただし個人賠償責任保険の支払限度額は、契約時に規定した支払限度額です。自動車保険とは異なり無制限ではなく「5,000万円」や「1億円」に設定されているケースが多いでしょう。
多くの個人賠償責任保険は、契約者の同居の家族と、別居の未婚の子が被保険者となります。したがって家族ひとりが個人賠償責任保険に加入していれば、他の家族も補償対象です。個人賠償責任保険に加入するときは、他の家族の加入状況を確認しておきましょう。
・個人賠償責任保険と借家人賠償責任保険の違い
借家人賠償責任保険は、先述したように、借りている建物内の大家さんの所有物を破損、汚損したときに賠償金が支払われる保険です。一方で個人賠償責任保険は、他人の身体やものを破損、汚損したときに賠償金が支払われる保険です。ここだけを読むと個人賠償責任保険に加入していれば、借りている建物内の大家さんの所有物を壊した場合に、個人賠償責任保険が支払われるように思えます。
ところが個人賠償責任保険では、契約者や被保険者の管理下にある財物については支払い対象外です。住んでいる建物内にある大家さんの財物を壊しても個人賠償責任保険は支払われません。したがって、個人賠償責任保険に加入していても、大家さんの所有物は補償されませんので、賃貸物件を借りるときは借家人賠償責任保険が必須です。
一方で借家人賠償責任保険に加入していても「寝たばこで火災を発生させて、隣の部屋まで燃えてしまった」という事例は、補償されません。また「お風呂の水を出しっぱなしにしたせいで、階下まで水が漏れてしまい階下の住人の家具・家電が故障した」という事例も借家人賠償責任保険ではなく、個人賠償責任保険で階下の住人の財物を賠償します。
これらのケースは個人賠償責任保険に加入しておかなければ、賠償金を自費で支払うことになってしまいます。
・店舗や事務所、工場などは個人賠償責任保険に加入できる?
個人賠償責任保険はその名の通り、個人を対象にした賠償責任保険です。したがって契約者が経営する店舗や会社の従業員が起こした事故、業務中に施設内で発生した事故は補償の対象外です。
店舗や事務所などが個人賠償責任保険と同じような補償を受けたい場合に検討すべきなのは、施設賠償責任保険や請負業者賠償責任保険、自動車管理者賠償責任保険などです。事業者向けの賠償責任保険は、その業務形態などによって異なりますので、事業内容に応じた賠償責任保険に加入する必要があります。店舗保険であれば、こういった補償があらかじめ含まれていることが多いため、ご自身の事業内容に適したものを選択しましょう。
借家人賠償責任の保険内容
次に、借家人賠償責任の保険内容についてみていきましょう。
借家人賠償責任補償は、損害賠償保険の特約としてセットされることが一般的です。火災、破損・爆発などによって借用する建物または個室を消失・損傷または汚損し、大家さんに対して法律上の損害賠償責任を負った場合に、その損害賠償金および判決による遅延損害金等が保険金として支払われます。
借家人賠償責任保険の対象となる事例は、具体的には次のようなものです。
- 火災やプロパンガスの爆発などが原因で借用する店舗を焼失あるいは損傷した
- 漏水で、借用する店舗の床を汚してしまった
- 車が突っ込んできて借用する店舗の壁が壊れた
ただし、どのような賠償責任が補償されるのかは、保険の契約によって異なる場合があります。加入する保険の契約内容は、必要な補償がカバーされるようにしっかりと確認しましょう。
借家人賠償責任保険の保険料
借家人賠償責任保険の保険料はだいたいどのくらいなのでしょうか?
借家人賠償責任保険は、損害保険など他の保険とセットで契約することが一般的であるために、単独の保険として保険料が設定されていない場合が多くあります。また、店舗の構造や築年数などにより保険料が変わることもあります。
そのため、借家人賠償責任保険の単独の保険料を明らかにするのは難しいところがありますが、1つの例として、三井住友海上のテナント保険「ビジネスキーパー」 では、築年数8年の鉄筋コンクリート造のテナントについて、支払限度額1億円の借家人賠償責任および修理費用補償特約の保険料は「年間9,650円」となっています。
店舗保険で補償することはできるの?
最後に、店舗保険に加入することで、借家人賠償責任補償が受けられるかどうかをみていきましょう。
- 借家人賠償責任補償は店舗保険で受けられる
店舗保険は、小売店や飲食店、理美容店などの、店舗経営において必要となる一通りの補償をセットにした保険です。店舗保険に加入すれば、必要な保険に個別に加入する必要がなくなりますので手軽に補償を受けられます。
借家人賠償責任補償は、多くの店舗保険がセット内容に組み込んでいます。ただし、保険会社によっては特約として付加しなければならない場合もありますので、加入にあたっては保険内容を確認しましょう。
- 店舗保険の補償内容
店舗保険の一般的な補償内容は以下の通りです。 - 損害補償
火災や落雷、破裂・爆発などによる損害を補償します。 - 費用保険金
事故の際の臨時の費用や、残存物の片付け費用などを補償します。 - 借家人賠償責任補償
火災、破裂・爆発などにより借用する店舗に損害を受け、大家さんに対して損害賠償責任を負った場合に損害賠償金が補償されます。 - 修理費用補償
事故にともない、賃貸借契約に基づいて修理を行った場合にその修理費用が補償されます。 - 施設賠償責任補償
施設賠償責任補償とは、
・建物など施設の所有・使用・管理に起因する事故
・サービス業務などの業務遂行に起因する事故
により負わせた他人への賠償責任を補償する保険です。補償の対象となる具体的な事例は次のようなものです。
・お店の建物に取付けられていた看板が落下してお客様にケガを負わせた
・店員が、運んでいたコーヒーをこぼしてお客様にやけどを負わせた
店舗保険を選ぶメリット
店舗保険の補償内容は、それぞれ個別の保険として別途に加入することもできます。しかし、個別の保険にそれぞれ加入することと比較して、店舗保険には次のようなメリットがあります。
- 保険を管理する手間が省ける
複数の保険に加入した場合には、それぞれの保険を別々に管理しなければならなくなります。契約も別になりますし、保険料の支払日も別であることが多いでしょう。それに対し、すべての補償を組み込んだ店舗保険に加入すれば、契約は1回で済みますし、保険料の支払日も1回です。保険を管理する手間が省けます。 - 補償の重複や不足が起こらない
複数の保険に加入していると、異なった保険の間で同じ補償内容が重複してしまうことがあります。また逆に、「加入している」と思っていた補償にどの保険でも加入していなかったという、補償の不足が起こることもあります。店舗保険を利用すれば、そのような補償の重複や不足は起こりません。
まとめ
借家人賠償責任補償は、大家さんに対する損害賠償責任が補償される、店舗を借りている場合には欠かすことができない保険です。店舗保険に加入することにより、借家人賠償責任補償も一括して加入することができます。店舗経営に際して必要となる一通りの保険に加入するなら、店舗保険を選ぶのが手軽で間違いが少ないといえるでしょう。
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